ダッシュボードの上にサイドミラーの謎

深夜2時過ぎ、友人の運転でドライブしたあとの帰り道。走る車の窓から入る風を気持ちいいと感じるころ、10月だったとおもう。その女性の友人は歳が離れていたけれど、大好きな女性でなんでも相談しあえるいわば親友。波長が合い、会う当日に着ていく服が同じ色だったり、「いま、言おうとしてた」、「電話かけるとこだった」とか、いつものこと、一緒に居て事がスムースに流れる間柄でした。その日は、夕食後、いつもより会話が弾み1時間ほど長居をした帰り。私の自宅まで送り届けてくれるのがいつものコースで、何度も通ったことの有る道。川沿いを左折した私たちは、ゆっくり走ること数メートル。自宅まであと数分走る距離。突然、何かが爆発したような「バンっっ」と、破裂音のような爆音が車のなかで起こった。外ではなく狭い車中で、鼓膜が破かれるような今まで一度も聞いたことのない爆音。車中で起こったその「音」に、私と友人は顔を見合わせ、「うん」と、異変が起こったことを確認するために、不安と動揺の顔で無言のまま車を脇に止めた。

「何?!凄い音。車の中で聞こえたよね?」。「うん、外じゃない。車の中で聞こえた。」二人ともケガはしていない。身体も服の乱れも汚れもない。どこにも何も変わった様子はない。何かがボディにぶつかったのか?鳥でもぶつかったのだろうか。車のライトをつけ、外を確認しようとドアに手をかけたとき、

「あー!!」「あヅー!!!」「見てー!!」と、友人が叫んだ。ダッシュボードを指さして「えーっ!!?」「えーっっ!!!?」と言っている。何度も「えーっ!」しか言わない。叫んでいる。何を驚いているのか?私は何がと聞き返す。「何が?」「何が?!!」。友人は「見て!」「見でぇー!!」と、声にならず「ひやーあっ」とまた叫んでいる。

ほら!と、指し示して教えてくれてもわからない私に、「ダッシュボード!!塊!!」と叫ぶ友人に、やっと、その存在を理解し確認した。「あたりまえの」場所でいつも見ているものを、「あるはずがない」場所で「それ」だと認識するのは、たとえ目の前に「それ」があったとしても、当たり前の「それ」と認識することは、思い込みが邪魔をして、むつかしいのだな。

運転席と助手席のちょうど真ん中あたり、ダッシュボードの上に、あるはずのないサイドミラーが在った。カバーは車体についていた。ちりめん状になった鏡面部分、ミラーの部分だけが塊で、ほぼ原形のまま崩れずに、煌々と青白く街灯に照らされそこに在った。

二人で考えた。左折する際、壁か塀にサイドミラーをぶつけてしまい、その反動でダッシュボードの上に飛んできたんだなと。窓は三分の二ほど開けていた。よくケガしなかったな。助手席に座る私の顔面を直撃する角度だし、万が一、顔に当たる角度ではなくても一旦、体に跳ね返ることをしないとダッシュボードの上には落ちない。塊のミラー部分は触ってみると結構な重量で、ダッシュボードの上に落ちた瞬間、粉々に飛び散る可能性の方がかなり高い。

サイドミラーをぶつけた角度とスピード、開けた窓の幅と角度、座る位置、いろいろな状況がケガを避けてくれたのだな、と今はおもう。ということにしている。

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