あれは「鳩の精」と思う。という話

ある日の午後、バス停で見たこと。

友人と待ち合わせの時間に合わせてバスに向かった。バス停まで5メートルのところで気が付く。髪の長い女性がひとり時刻表の前で立っていた。うつ向いている。髪が前に垂れていて顔は見えない。灰色のシャツと黒い色のパンツ。バス停の灯りで真ん前に佇む女性にスポットライトが当たっているような風景。歩きながらボタン式のバックが開いていたことに気付き「パチンっ」と留める作業で一瞬、下を向いた。2秒位だろうか。視線をバス停に戻すと、灯りに照らされて足元に影を作っていた女性が居ない。どこにも居ない。オフィスビルの立ち並ぶビジネス街。入り込む路地、死角、ない。道路を直線に進むしかない。

「あれ?なんで居ないのかね!?」

バス停の灯りに照らされて佇んでいた灰色と黒色の女性。バスの到着する時刻には間に合ったはずなので、とりあえずバスを待つことにした。まあ、こんなこともあるのかね、と、なんだか「もやもやっ」としながらも時刻表に目をやった。時刻表の右下あたりになんだか物体がぼやけて見える。黒い色の大きなシミのようなものと灰色の色だけわかった。地面に広がっている1メートル範囲位の大きさに黒い色がバスの街灯に少しだけ照らされた。その瞬間、身体中に鳥肌が立つ。どす黒く変色した血の色とまだ赤い部分の色が灯りに照らされてはっきりわかる。鳩だった。黒色と灰色の体。

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